私のテイスティング法 ~第三章 コメントの文章とまとめ方~
2回ほどテイスティングについて記事を書きましたが、今回は実際のコメントの書き方や記録をどうまとめているかについて書いていきます。今回でようやく終わりです!
(もう少し細かく分ければよかったでしょうか…)
一回目と二回目の記事はこちらになります!
1. 一般的なテイスティングコメントの問題
公式のテイスティングコメントや、よく見るテイスティングコメントって、要素をただ書いていくことが多いと思います。例えば、土屋守氏の『シングルモルトウイスキー大全』に載っている、マッカラン18年のテイスティングコメントはこんな感じです。
香り・・リッチで深みがある。シェリー、トフィー、レーズン、アーモンド、シナモン。加水でマンダリンオレンジ、フルーツケーキ。
味・・・深みがある。スィート。スパイシーで複雑。最高級のプ―アール茶、クローブ。余韻が非常に長い。
総評・・究極ともいえるマッカランの1本。深みがあり余韻が長く続く。イタリアンチーズのゴルゴンゾーラ・ドルチェと・・・・・。
あくまで例です、そこはご理解ください。
これがいけないというつもりは全くありません。
ですが、個人的には何と味気ないものかと思っていしまいます。もちろんこれだけではなく、ウイスキー販売元のコメントやよく見るコメントもこのスタイルばかりです。
はっきり言います。正直嫌いです。
なぜ嫌いかという理由はいくつかあります。
①書かれた香りや味の要素のどの部分なのか?
第一にわからないのはここです。ただ要素が並んでいる中、その要素の何を感じ取って記載しているのか、何もわかりません。
その要素すべてだ!というのかもしれません。
たしかにそういう時もありますし、それならその要素だけを書きます。ですが、そうだとするならこんなに併記できないと思います。それらすべてが、すべての要素で感じられるのですか?
そんなことはないと思います。
さらに、人によってその書かれている要素からなにを想像するのかは違ってきます。他人ではなく、自分自身でも時が経てば変わってしまうでしょう。
そうしたとき、要素内の何なのかが書かれていないとすると、その香りや味のイメージは正しく伝わるでしょうか…?
②その香りや味は同時なのか?それとも時間変化があるのか?
個人的にはこっちのほうが大切です。
意外と気にされていないところかもしれませんが、記載された香りはどういう順番で香ってきたのでしょうか?
ただただ並べられているだけだと、どう香ってくるのかなにもわかりません。
先ほどの文章でいえば、シェリーが来てレーズンが来て~となるのか、シェリーとレーズンにアーモンドやシナモンが同時に感じられるのか、それともシェリーとレーズンの奥からアーモンドやシナモンが香るのか…
味も同様です。ここに書かれているのは明らかに要素が少なくは感じますが…。
深さ、スィートさ、スパイシーさ、プ―アール茶にクローブはいったいいつどのように感じたのでしょうか。ここで読んだだけでは何にもわかりません。
つまり、香りや味の時間経過による変化やその要素の近さ(すぐ来るのか、奥からなのか、軽くなのかかすかになのか、など)がまったく書かれていないのです。
2. 要素の羅列ではなく文章に
さて、上記のような問題点があるからこそ、私は文章でテイスティングコメントを書きます。
あえて文章で書くからには、そこで表現できることをなるべくたくさん使いたいです。そこで、大きな方向性として、以下のことを大前提にしています。それは、
「見返した時に、不完全ながらもより近いイメージを想像できるか」
です。
このために、要素の強さや順番、そして感じられ方を細かく補っていくのです。
①感じられた順番で
まずは、これを大原則にしています。
感じられた順番に書いていかないと、見返した時に想起しづらくなります。
また、読むという行為は時間経過を伴うものです。だからこそ、その読むことによる時間経過と、香りや味の時間経過を同期させるためにも、感じられた順番で書くのが一番だと思います。
印象の強い要素から書いていくこともできますが、結局大きくは変わらないと思います。それなら、見たときに想像しやすいように、感じた順で書く方がいいと思うので。
②香りは「強さ」を明確に
詳しい分析による要素は、第一章と第二章であげたようなやり方でとらえています。
それが、いったいどのように感じられるのかを明確に書く必要があります。
①の感じられた順番で書きながら、その香りの「強さ」をわかるようにします。
その要素が「メインで」感じられるのか、「軽く」感じられるのか、「奥から」なのか、「かすかに」なのかなどです。
基本的には先に感じられるものが強い香りで、後に感じられるものが弱い香りではあります。ですので、上に書いたような順で使っていくことが多いです。
奥からは少しわかりづらいですが、ある要素の背後にそれが感じられるようなイメージの時に使います。
一方で、先に感じられたものを分析すると、弱いけれども含まれている要素を感じることもあります。そういったものなどは、しっかりとメインで香るものでありながらも弱い要素であることを明示しないといけません。そうしたときには、「~や、軽い○○の香りなどがメインで感じられる」などと書くことももあります。
ところで、香りを嗅ぐ中でも時間経過は起こります。すると、どうしても香りに変化が生じます。
そこで、その香りの変化は、新たに「次第に」や「時間がたつと」などと明確に違うタイミングでの香りだとわかるようにします。
これが書かれていないと、いったいいつの香りなのかがわからなくなってしまいます。
ちなみに、この「強さ」は香りだけでなく、味に関しても重要です。「強さ」は要素の比率、もしくは配合を伝える手段です。ですので、次に味のコメントについて書いていきますが、そこでも強さは大切なものになってきます。
③味は、強さに加えて目まぐるしい変化を言葉に
前回の記事で、味は二つある(口内でと、飲み込んでから)と言いましたが、口内で感じるものに関しては、実はあまり大きく味を感じていないように思います。
事実、テイスティングコメントを書いていても、それほど長くなりません。ですので、ここでは、感じられるものをアルコールから差が来るまでにしっかりとメモします。
しかし、香りと同様強さに関してはしっかりと記します。そうでないと、要素の比率/混ざり具合がわからなくなってしまうので…。
(正直、口内に関してはまだまだ分析の余地が残っているかもしれません…。)
さて、そして問題は飲み込んでからです。ここでは刻一刻と感じられる味は変化します。ですので、それをしっかりと言葉にしていきます。
まずは、飲み込んだ瞬間に何が感じられるのかを書きます。大事なのはこの次です。この要素がどう消え、次の要素がどのように感じられてくるのかを詳しく書きます。
たとえば、最初の要素がすぐに消えて次の要素にすぐ切り替わるのであれば、「○○が一気に駆け抜けて消え、◇◇が前面に現れる」みたいな感じです。
同時に、どのくらいの強さなのかもしっかりと書いていきます。香りでも書いた、「メインで~」や「軽く~」などですね。
この強さと要素の変化は、融合させて書くこともできます。
永遠と書けるくらい例はありますが、ここでは毎回言語感覚が試される感じですね。似たような表現はたくさんあるとは思いますが、その中から何がこれを表すのに適しているのかを、瞬時に見抜く感じです…
まあ、疲れますね(笑)
そして、こうしたものが続いていきながら、最後に舌の上に何が残って、すぐに消えるのかゆっくりと残るのかなどを書きます。
ここまでで、ようやく味はひと段落です。
④フィニッシュは香りと同様強さメインで、しかし変化も意識
フィニッシュに関しては、香りと味の中間に位置します。ですので、香りと味で書いたことを組み合わせてやっているだけです。
しいて言うと、ここは余韻にも相当するので、どの程度長く残るのか、軽いのか重いのかなどのコメントは追加でつけるようにしています。
正直、特段書くことはこれ以上ないかも…
3. 「感想」について
これは、一回目の記事の冒頭で、テイスティングコメントは4段階に分けると言いました。その最後のものです。
この感想では、個人的に強く印象に残ったこと、あるいはグラスでの香りや味,フィニッシュに書くほどではないけれどもなにか感じたことなどを書きます。
たとえば、前回飲んだときとの大きな変化や、はじめて飲んだのであれば、他に似ていると感じた銘柄や衝撃を受けた点などです。
あるいは、全体を通しての印象や、全体のまとめ的なことも書きます。全体を通してこの要素が強かっただったり、3段階全て違う要素で面白い、とかだだったりします。
最初に引用した土屋守氏のコメントで言えば、総評にあたる感じです。要は、テイスティングのまとめという感じですね。
ただ、そこまで固くならずに、思ったことで書いておきたいことをただただ書く感じです。
ここはゆるくやってます。ですから体調的なことや、精神的なことも書いたりします(笑)
ここをしっかり書いておくと、次に振り返ってみたときにも、当時の自分がなにを思って飲んでいたのかがわかります。
言ってしまえば、日記にも近いかもしれませんね。
4. テイスティングコメントの個人的まとめかた
①スマホでメモ
まず、実際にテイスティングをして書いているときには、スマホのメモ帳を使用しています。
これは、間違ったり表現を変更したいときに修正しやすいからです。
文章でコメントを書いているので、いきなり紙に書くと修正しづらく、修正しようとすると時間がかかってしまいます。しかし、スマホであれば、テイスティング中に表現を変えたいと思ったときに、ぱっとその部分だけ修正できます。
この時に、日付や飲み方(ストレートやロック、ソーダ割など)も一緒に書いておきます。
②ルーズリーフでまとめる
スマホにまとめたものを、時間があるときにルーズリーフに書き移して、ファイルに入れて、銘柄ごとにまとめていきます。
面倒であればそのままスマホでも、パソコンでまとめてもいいと思います。
しかし、私は紙のほうがあとからでも探しやすく、さらにあえて紙に書くことで改めてその銘柄の印象を再確認することになり、印象を覚えていけるというメリットがあるようにも思います。
まとめたものは、下の写真です。
これは、左側はグレンモーレンジィ・キンタルバン14年の最後のページで、右ページはグレンモーレンジィ・アルタの最初のページです。
日付や飲み方、香り、味、フィニッシュ、感想などはしっかりと書いていますが、右ページの上を見るとわかるように、銘柄の名前やアルコール度数、そしてウイスキーならハイランドやスペイサイド,ジャパニーズと言った「地域」や、シングルモルトやブレンデッドモルト,ブレンデッドなどと言った「区分」、さらに開栓日も書いています。
見返した時にわかるように、ということで、そこまで書いています。
おわりに
非常に長くなりましたが、私のテイスティング法はこれにておしまいです!
あくまでも個人的なことですし、別にプロになろうとも思っていません。しかし、好きであるからには対象のことをしっかりとわかりたいのです。だからこそ、自己流ではありますが、このようにやっています。
ここまでの記事が、何かしらの参考になればうれしいです。
それでは!