私のテイスティング法 ~第二章 分析中の思考~
今回は、以前のテイスティング法の続きで、分析中にどういう風に考えているのかということを解説していきたいと思います。
前回の記事はこちらです。
1. 感じたまま
具体的な分析より以前に、まずはその香りや味を感じてどう思うのかは大切です。
やはり、まずは感じたままです。これを忘れてはいけないと思います。
「好き!」「ヤバい!」「好きじゃない」「無理…」
私はそれを基本にしています。第一はここからです。
ですから、詳細な分析をする直前にも、嫌いだったり嫌なものを感じるとしかめっ面になり、好きなものを感じると興奮します(笑)
このように、感じたままをしっかりと認識することで、大きな道筋が決まっていきます。
そして、なんで「好き」なのか、何が「ヤバい」のか、なんで「無理」なのかを探っていくのです。
2. 要素をとらえていく
① 感じたままで要素を把握
要素をとらえていくことでも、感じたままは大切です。
感じたままをダイレクトに書くことで、自分も見返した時に想像しやすいですし、飲んだことある人は自分とのとらえ方の違いを簡単にわかりますし、飲んだことない人はそのコメントからの想像がしやすくなります。
最近で衝撃的だったのは、「ももの缶詰を開けた香り」です(笑)
もちろんこのコメントは、この段階だけではなく、これから述べていく段階を認識したうえで出てきた言葉でですが、そこまで詳細に分析するより前に、感じたままでこの言葉が出てきました。
でも、こう言うとすぐに想像ができるでしょう。自分も他の人も、こうして感じたままを書けば容易に想像ができます。
さて、感じたままをとらえることによって、大まかな要素をとらえていきます。
ここでは、リンゴ、オレンジ、白ブドウ、カラメル、メープルシロップ、レーズン、花などという感じです。
この上で、より詳細な分析に行きます。
② 分析その1
それでは、感じたままでとらえた大まかな要素をより詳細に分析していきます。
たとえばオレンジであれば、ピール(皮)なのか、ピールオイル(皮を絞って出るオイル)なのか、実(ひとつひとつのつぶつぶ)なのか、または房の皮なのか、それとも房とピールの間のわたなのか…
リンゴであれば、若い青リンゴなのか、赤いけど熟しきっていないリンゴなのか、それとも熟したリンゴなのか、さらには焼きリンゴなのか、アップルパイなのか、リンゴのコンポートなのか、リンゴジャムなのか、全く違ってリンゴの花の香りなのか、リンゴの木の枝なのか…
上にあげたのはほんの一例にすぎませんが、こうして、要素の部位や状態を明確にしていきます。
ところで、要素によって、分析方法の向き不向きはあると思うので、これが無理なら他の方法をとります。これは、ここからあげるどれにも共通することです。
③ 分析その2
今度は、感じたままの要素を別方向から分析していきます。
もちろん順序なんてなく、こちらを先にやることも、同時にやることももちろんあります。便宜的にその2などと順序をつけていることはご理解ください。ただ、こちらの分析をする際は、あまりその1と同時にやることは少ないですね。
さて、今度は部位や状態ではなく、その要素の中の成分的な面に注目します。
たとえば、オレンジの実の甘い部分なのか、酸っぱい部分なのか、それともあのつぶつぶした質感なのか、それら全てなのか…
ただオレンジの実と思ったとしても、その甘い部分からそれを想起しているのか、それともその酸味からそれを想起しているのかで、かなり違った香りや味になってしまいます。
他にも、焦げ感といっても、カラメルの焦げなのか、焚き火などの木の焦げなのか、それとも麦を燻した焦げなのか、あるいはベーコンなどの焦げなのか…。
これら全て違っていると思います。
まとめると、大きな要素のどの部分なのかを明確にするということですね。
こうすることで、より正確に何を感じたのかがわかるのです。
④ 分析その3
その2と同じように要素の中の成分的な面に注目するにしても、複合的に絞っていくこともあります。
たとえば、甘さ、といっても、バニラやバナナに共通する甘さと、リンゴや洋ナシに共通する甘さ、さらにはカラメルや黒糖に共通する甘さは全て違っています。
このように、なにかとなにか(2つに限らず3つでも4つでも)に共通する○○というように絞りこむこともあります。
実際には、その1やその2よりも、むしろこちらのほうが多い気がします。
ですが、この方法は複数の方向から限定していく、という挟み撃ち方式を使っているので、少し難易度が高いです。
慣れると、間にある感覚を表現できるので、幅が広がるように思います。
⑤比喩的な分析
これは上の三つを駆使してもよくわからないけれども、なぜかその要素を感じるように思う、という時に用います。
「○○のような~」というやつを使います。
ですので、これは分析というよりも「整理」という感じです。
これ以上特筆することもないですかね(笑)
3. 時間との闘い
このようにして詳細な分析をしていくわけですが、これらは常に時間との勝負です。
時間がたてば、香りも味も必ず変化します。たった10秒、いや5秒程度でも大きく変化してしまうこともあります。特に、飲み込んでからの味とフィニッシュは変化が速いです。
ですから、ここまで長々と脳内で何を考えて分析しているかを書いてきましたが、これはすべてその時間でやっています。感じたままも瞬時で認識して、度の分析を使用するかなどは、意図的に選ぶというよりも気づいたら選んで先に行ってるレベルです。
もちろん同時にメモもしますから、この時は頭フル回転で、脳の活動すべてを分析とメモにまわしてる感じです。オーバーワークになる寸前ですね、ハイ。
特に味とフィニッシュの分析中は、ヤバいです。
ですから分析の最中に思っていることは、「はやく思い浮かんでくれ」です(笑)
思い浮かばない時もありますが、そういう時は無理をしすぎず、わかる範囲で書いていきます。書いていると思い浮かぶときもあります。
ちなみにどうしても無理なときは、以前自分が書いたコメントを参照して表現を見つけることもあります。
ですので、もし誰か私と一緒に飲んでいるとき、ちょうど一口目や二口目を飲んでいるときに話しかけて反応がなかったとしても、ご了承ください…(笑)
(半分ウソで、半分本当です)
4. 分析のイメージ
あまり考えたことがないと思いますが、このあいだTwitterでやりとりをしていて意外と人それぞれ違うことが判明したので、書きます。
一般的には、「例える」というやり方が多いかもしれません。これは○○みたいな香り、もしくは味、という感じですね。
ですが、私は何かそれとは違うんですね。もちろんそれを使う時もありますが、基本的にはそれとはイメージが違っているんです。
私の場合は、香りや味が図形だとした場合、「重なっているライン、あるいは接線、もしくは近い線」のイメージなのです。
ですから、「知っているものの香りや味の要素を用いることで、対象の香りや味の図形を再現する」ともいえるかもしれません。
これを図にしてみるとこんな感じです。
え?図がわかりづらい?それはすみません…
この図においては、単純化するためにすべて「香り」にしていますが、「味」も同様です。そして、面積、つまり図形の内側は含まないのでご理解ください。
真ん中の赤い線がウイスキーなど、テイスティング対象になります。この対象はフィクションなので、どの銘柄かなどと考えないでくださいね(笑)
外側に書かれている図形が何を表しているかと、それと対象の共通部分や接点が何なのかを書いています。離れている場合は、近いけれどもそのものではないということを表しています。
このように、テイスティングする際は、
「この図形の線や通る点は、知っているものの何にあたるのか」
という視点で分析をしています。ですから、例えてないことが多いんですね。まさにそれであって、それ以外のなにものでもないという時が多々あります。
前に出てきた「ももの缶詰」は、まさにそれであって、それ以外ではありえないんです。「ももの缶詰『みたい』」ではないんですね。
もしかしたら、それそのものなわけないと思うかもしれません。ですが、目の前にあるものが何なのかを知らずに、その成分を認識して嗅いだり味わったら、確実にそれだと誤認してしまうと僕の中では言えるんです。
だからこそ、第二段階のように、あそこまで細かく分析するのです。
もちろん、例えを使う時もあります。それそのものではないけれどもそのような香りがする、という場合です。そういう時は、「のような」や「みたいな」という表現をつけて分析することで、例えていることを明確にしています。
ですが、その使用量は少ないかもしれません。ですから、上の具体的な分析の際にも、比喩的なものは最後に書いたのです。
便宜上この位置でまとめましたが、これがあるからこそ、今まで書いてきたようなやり方になっているんですね。
おわりに
今回はテイスティング中の思考や、具体的にどう分析しているのかについて書いていきました。テイスティングでの分析のイメージは、ひとりひとり違っているとおもうので、ぜひご自分のイメージを確認してみてほしいです。
次回の記事はこちらです!テイスティングコメントの文章とまとめ方について書いています。