細部に全体は内包される ~「『コーラン』を読む」を読みつつ~
「神は細部に宿る」
この言葉はわりと有名ですね、誰が言ったのかははっきりしないようですが。
これはこれで素晴らしい言葉ですし、まさしく事実だと思います。ただ、かなり感覚的、精神的、あるいは芸術的、さらには美的な言い方だと思います。
これと似ていますが、
「細部に全体は内包される」
ということも言えるのではないでしょうか。
じつは、この記事を書こうとするまで最初のほうの、「神は細部に宿る」はすっかり忘れていました(笑)
ですが最近、ふたつめのほうの、「細部に全体は内包される」ことに改めて気づかされたのです。
きっかけとなったのは、岩波現代文庫の「『コーラン』を読む」を読んだことです。
この本は市民セミナーの録音を活字化したものです。
このセミナーでは、イスラームの聖典である『コーラン』の冒頭「開扉の章」を10回かけて読んでいくことで、コーランの読み方やそこに価値観、考え方などを学ぶことが目的だったようです。
正直、読み始めるまでは、そんな「開扉の章」だけでわかるのか、と思っていたところがありました。
しかし、読んでみると、たしかにここにはコーランのすべてが凝縮されているように思えるのです。解説の中で、コーランの様々な部分が引用さるとともに、記号論も取り入れられて、井筒氏のコーランの解釈学とも呼べるものが展開されていくのです。
「開扉の章」はたった7節の短い文章です。しかし、それを理解し、解説するのにはそれだけのことを知り、考える必要があるのです。
ほんの小さなところに、全体が隠れています。
ここではたと気づいたのです、「そうか、これって音楽もそうじゃないか」と。
僕はヴィオラを弾いていることもあり、クラシック音楽ばかり聴くので他のジャンルの音楽に適用できるかはわからないのですが。
何か曲を演奏しようとしたときに、ある部分の解釈で悩むことがあります。
それは一見、たったの一音だったり、ただのクレッシェンドだったり、何となくついているスタッカートだったり、ふと追加されたひとつの楽器だったり…。
まあいいや、と流すこともできるようなものです。普通だったら気にも留めないことかもしれません。
でも気になってしまったからには、なんとか解決したくなるのです。
しかし、その場所を見ているだけでは解決できないのです。
その曲の形式や展開の仕方、さらにはその作曲家の書法のクセ、ほかの作曲家との関連、その作曲家の生活環境や行動記録、そしてその時代の潮流…。
そこまで調べないと決定できないのです。
たった一音です。ただの空気の振動です。
それなのに、そこまで奥深いものを引き出してこないと、どうするか決められない。
細部に全体が隠れています。「細部に全体は内包される」のです。
そこまでいかなかったとしても、たった一音が微妙だったから、ほんの少しだけテンポが速かったから微妙だった、ほんの少しだけ楽器間の音量バランスがずれていたから…
ほんの少しの違いなのに、それによって全体の印象が決定づけられてしまう。
そこにも通じていきます。
こちらを広げると、もっと似たようなことが見えてきます。
料理やカクテルなどでも、ほんの少しの分量の違い、ほんの少しの工程の違いで味が大きく変わってしまいます。
お酒のグラスもそうですね。ほんの少しのリムの反りやボウルの広さ、ガラスの厚さ、これでそのグラスの評価が決まってしまう。
他にもまだまだたくさんあるでしょう。
広げるときりがありません。
人間もそうですね。
その人の口調、しぐさ、着ているもの、書いた文字、さらには醸し出す雰囲気…。そういった細部に、その人の人となりや生活環境、その人の歴史が反映されます。
いや、反映されるというよりも、それを無意識に人間は感じ取ってしまいますよね。
そうして、相手がどんな人であるかを認識するわけです…。
「細部に全体は内包される」
矛盾しているようで、していないと思います。
レミーマルタンV.S.O.Pのレビュー
今日は簡単なレビューです。
有名なブランデーの一つ、レミーマルタンのV.S.O.Pです。
①基本情報
銘柄: Rémy Martin V.S.O.P
容量: 200ml ※フラスクボトル
アルコール度数: 40%
産地: フィーヌシャンパーニュ (Fine Champagne)
熟成年数: 4年~12年をブレンド
値段: 税込1,840円(オープン価格)
※700mlの希望小売価格は6,050円、実売価格は3,500円~4,000円
フィーヌシャンパーニュとは、グランドシャンパーニュ産ブドウを50%以上使用し、残りはプティットシャンパーニュ産を使っているもののみ名乗れるランクです。
レミーマルタンはすべてフィーヌシャンパーニュです。他にはヘネシーV.S.O.Pフィーヌシャンパーニュもそうです。
②レビュー
飲み方: ストレート
使用グラス: リーデル ヴィノム コニャック
このグラスは、リムが沿っているのでV.S.O.Pなど若いランクのものでもアルコール感を軽減してくれます。ウイスキーのテイスティンググラスとしても優秀ですよね。
・香り
熟したブドウのような芳醇な香り、バニラやカラメルソース、白ブドウのジュース的な若さとみずみずしさ、ホイップクリームや生クリームなどの洋菓子感。どこかに昆布を水で戻したやつの香り…
・味
口の中では、樽の苦みとブドウのコク、さらに軽くブドウの甘み。
飲み込むと、バニラの甘みとともに、コーラのようなカラメル感と昆布のコク(合わさるとブランデー特有のイソジンの風味、いい意味で)。最後に生クリームのようなオイリーさがうっすら残る。
・フィニッシュ
カラメルソースや昆布(あわせてイソジン)、バニラ、白ブドウの酸味のある香り、さらに軽くカスタードの香り。だが、それほど強い香りではなく、すぐに消えていく。
③総評
まあ、4年~12年ですから若いです。
良いところとしては、この若さでコニャックのコクはしっかりと出ているところと、若さゆえのみずみずしさなどもしっかりと感じられるところがあげられます。
悪いところは、一番は若すぎて、味の厚みやフィニッシュの短さの点でどうしても力不足を感じるところです。また、値段的にどうしても少し高く感じてしまいます。200mlで1,800円はわりと高いですし、700mlで3,500円も…。
カクテルの材料などにはいいと思います。ヘネシーV.Sよりは複雑ですので、ほかの材料と混ぜてもレミーマルタンをしっかりと感じ取れそうです。
一方で、コニャックやブランデーの入門としてはあまりお勧めできませんね。これがコニャック、と思ってしまうと少しマイナスからのスタートになってしまいそうです。コニャックのことをある程度経験すれば、こういう若いのも意外といいじゃん、とはなると思いますが…。
まあ、同じく有名なヘネシーV.Sよりかはコニャックらしいとは思います。
ブランデーとは?
ブランデーってよく聞くと思うんですけど、いまいちどういうものかよくわからない、そういう人多いと思います。
今回はそこについてかるーく解説したいと思います。
1.ブランデーって何?
①ブランデーとは
ブランデーって意外と知られていません。でも、その定義は簡単なのです。
果実酒から作られた蒸留酒、これだけです。
ですから、ブドウのブランデーもあれば、リンゴのブランデーもあり、サクランボのブランデーや杏のブランデーもあります。果実からお酒が造れれば、それを蒸溜すればすべてブランデーと言えるのです。
ではなぜややこしいのでしょうか?
そこのキーワードが、「ブドウ」と「コニャック」です。
日本に限らず、一般的にブランデーというと「ブドウのブランデー」を指します。そして、ブドウのブランデーの代名詞的存在だったのが、「コニャック」なのです。
ウイスキーでいうと、「ブランデー」は「ウイスキー」と同じレベルで、「スコッチウイスキー」が「コニャック」とかのレベルですね。
ブドウのブランデーというのは、極端に言うと、ワインを蒸溜したものです。
そして、ブドウのブランデーが一番有名なのは、それが一番多く、歴史的にも古いからです。これは、次の生産地を見ながら確認しましょう。
ちなみに、同じように言えば、ウイスキーはビールを蒸溜したものですね(笑)
コニャックについては後で詳しく説明するとしましょう。
②どこで作られてるの?
ヨーロッパで作られていた果実酒で、最も多いのはワインですよね。ワイン生産が多い地域というと、フランスやイタリア、スペインなどですね。しかし、やはり一番有名な産地であり生産量も多いのはフランスでしょう。
実は、ブランデーの語源は「焼いたワイン」です。
(余談ですが、フランス語でブランデーのことは"eau-de-vie(オー・ド・ヴィー)"と言います。訳すと「命の水」という意味で、ウイスキーやウォッカの語源と同じですね。)
その語源が「焼いたワイン」であるとおり、ブランデーは歴史的にもワインの蒸留から始まりました。
すると当然、ワイン生産が多い地域でブランデーも生産されるわけです。
そして、フランスではブランデー生産が次第に大規模に行われるようになり、輸出も行われるようになって、非常に有名となりました。こうして、この先のコニャックの話につながっていきます。
※ここからちょっと上級編
じゃあ、イタリアやスペインにブドウのブランデーはないのか、というとちゃんとあります。
イタリアで有名なブドウのブランデーは「グラッパ」と言います。
これはワインからではなく、ブドウの搾りかすを発酵させたアルコールから作ります。
厳密には、「ポマース・ブランデー」という部類で、「粕取りブランデー」ともいわれます。
同様のものはフランスにもありますが、それは「マール」と呼ばれます。
スペインで有名なのは、シェリー酒の産地で作られる「シェリー・ブランデー」です。
これはあくまでシェリー酒の産地で作られたブランデーであって、シェリー酒から作られたブランデーではありません。
どうやらこのシェリー・ブランデーの製法が植民地に伝わり、プエルトリコ、グアテマラ、キューバ、メキシコなどの旧スペイン領のラムの製法になったそうです。
2.フランスのブランデー
有名になったフランスのブランデーは、ブランド化が進んでいきました。そして、その中でも上質なブランデーを作る地域として「コニャック」、「アルマニャック」、「カルヴァドス」が出てきたのです。カルヴァドスだけは、ブドウではなくリンゴのブランデーです。
ちなみに、どれも原産地呼称規制(AOC)の対象なので、認められた地域でないとこれらを使うことはできません。
ブドウのブランデーの場合は、フランスのほかの地域だと「フレンチブランデー」、世界的には「ブランデー」です。
リンゴのブランデーは「アップル・ブランデー」になります。
決してこの地域でないと美味しくないわけではないですが、基準がないので品質が一定じゃないというデメリットはあります…。
①コニャック
ワインで有名なボルドーの北、コニャック市を中心とする一帯で採れたブドウで造られたブランデーを「コニャック」と言います。日本だと、ブランデーというとこれが一番有名ですね。
よく聞く、ヘネシーやレミーマルタン、カミュ、マーテルと言った有名ブランドも、このコニャックです。
ちなみに、土壌によって、生産地が次の6つのランクに分かれます。
1. グランド・シャンパーニュ (Grande Champagne)
2. プティット・シャンパーニュ (Petite Champagne)
3. ボルドリ (Borderies)
4. ファン・ボア (Fins Bois)
5. ボン・ボア(Bons Bois)
6. ボア・ゾルディネール(Bois Ordinaires)
上のランクに行くほど高級になります。しかし、土壌ごとに味が大きく異なってくるので、一概に一番上が一番いいというわけではないのです。沼ですね、ハイ。
②アルマニャック
コニャックとは逆に、ボルドーの南のアルマニャック地方で作られるブドウのブランデーを「アルマニャック」と呼びます。正直日本だと有名じゃないですね…
アルマニャックも生産地の土壌によるランクがあります。
1. バ・アルマニャック (Bas-Armagnac)
2. テナレーズ (Tenareze)
3. オー・アルマニャック (Haut-Armagnac)
実際のところ、よく見るのは一番上のバ・アルマニャック産のものかもしれません。
コニャックもアルマニャックも、同じブドウのブランデーですが、蒸留方法やブドウの品種が違っているので、味わいは全く違います。沼要素②ですね…。
③カルヴァドス
これだけ、リンゴのブランデーです。ブドウではないので注意してください!
フランスの北部、ノルマンディー地方で作られるリンゴのブランデーを「カルヴァドス」と呼びます。
ブドウの栽培限界よりも北に位置していて、シードルと呼ばれるリンゴのお酒が造られていたこともカルヴァドスが生まれるきっかけになっています。
ただし、リンゴのブランデーとは言いますが、完全にリンゴではありません。
洋ナシも混ぜられています。
ここももちろん、ランク分けがあります。が、カルヴァドスでは生産地域だけではなく、洋ナシの混合量も関わってきます。
1.カルヴァドス ペイ・ドージュ(Calvados Pays d'Auge)
ペイ・ドージュ地区で作る、洋ナシ30%以下、単式蒸留器で2回蒸留、最低2年熟成
2.カルヴァドス ドンフロンテ(Calvados Domfrontais)
ドンフロンテ地域で作る、洋ナシ30%以上、半連続式蒸留、最低3年熟成
3.カルヴァドス (Calvados)
上記2つの地域とその他認められた地域で作るかそのブレンド、最低2年熟成
どの地域かによって味は大きく変わりますし、洋ナシの混合量でも変わります。逆に言うと、コニャックやアルマニャックよりも、一番上が一番いいわけでもないのです。面白いですが、沼は深いですよ…
3.その他のブランデー
原料の果物さえ作れてしまえばどこでも作れます。日本でもサントリーやニッカがブランデーを出していますね。最近では「甲州」も見ますね。
ただ、基準が定まっていないというのが大きいです。X.Oなどの表記は、コニャックなどでは厳格な規定があります。しかし、こうしたブランデーにはその基準がないのです。
品質的に保証されているものとなると、どうしてもコニャックやアルマニャック、カルヴァドスへと行ってしまいますね…。
一方で、杏のブランデーやサクランボのブランデーは、よくカクテルに使われます。杏だとアプリコットブランデー、サクランボだとチェリーブランデーとなります。
しかし、このチェリーブランデー、実は複雑です。簡単に言うと、ブランデーにチェリーを付けた、本当の意味からするとブランデーではないものが混ざっています。むしろ、それがチェリーブランデーとして知られてしまっていて、本当の意味でのチェリーブランデーは認識されていないかもしれません…。
マラスキーノやキルシュワッサーは、熟成はしていないものの、ちゃんとしたチェリーブランデーです。知ってあげてください…。
4.ブランデーのグラス
基本的にブランデーはストレートで飲みますが、ブランデーというと、あの大きなグラスをぐるぐるとまわしながら金持ちが飲んでいる…そんな印象が根強くありますね。石原裕次郎スタイルです、はい。
このグラスはスニフタグラスというのですが、質の悪いブランデーが多かった時代の飲み方なのです。
質の悪いブランデーは香りがなかなか立ちません。そこで、手のひらで温めることで温度を上げ、香りを開かせていました。
しかし、現在ではブランデーの質は非常にいいです。
そのため、ストレートで飲む際にも、一般的なテイスティンググラスで十分です。いや、むしろその方がいいのかもしれません。
スニフタグラスだと、ボウルが非常に大きい分、香りが開きすぎてしまってアルコールの刺激も来てしまいます。結果、かえってまずくなってしまうことも多いのです…。
事実、リーデルとヘネシーの共同開発によって生まれたソムリエシリーズのコニャックXOは、一般的なテイスティンググラスの形状をしています。
ですので、ブランデーグラスじゃないといけないなんてことはないのです。
おわりに
ブランデーについて、だいたいはわかりましたでしょうか?
まだまだ説明しきれていないことはありますが、それは追々…。
ポートシャーロット10年(Port Charlotte 10 aged years) 香りと味は開栓後どう変わっていく?
こんにちは!
久しぶりにウイスキーの香りと味の変化です。今回扱うのはブルックラディ蒸留所のポートシャーロット10年ですが、個人的に大好きなので飲み切ってしまって非常に悲しいです。早くもう一本買わないと…
1.ポートシャーロット10年の基本情報
①基本情報
・蒸溜所: ブルックラディ蒸溜所
・熟成年数: 10年
・アルコール度数: 50度
・フェノール値: 40ppm
・樽構成:
ファーストフィル・アメリカンウイスキー樽 65%
セカンドフィル・アメリカンウイスキー樽 10%
セカンドフィル・フレンチワイン樽 25%
・特徴
着想、蒸留、熟成、ボトリングをすべてアイラ島で行っている
②公式テイスティングコメント
・香り
清々しい潮風が、スモーキーさを穏やかにしている。オークとスモーク、そしてスピリッツ本来の個性は、10年の熟成を経たことでバランスが取れ、調和が生まれている。ポートシャーロット特有のドライで土っぽく、ピートの灰を思わせるスモーキーなアロマだが、そこにキャラメルソースやファッジ、ヴァニラカスタード、かすかなショウガ、ナツメグ、クローブなどの波がオークとともに押し寄せて前面に出る。
グラスに注いで水を1滴加えると、優しいレモンメレンゲやオレンジなどのシトラス香が解き放たれる。深く息を吸い込めば、野生のタイムやヒース、ハマカンザシの花のようなフローラルなアロマがあなたを大西洋の海岸への連れて行くだろう。
・味
舌に乗せてみると、テクスチャーとその存在感の中に繊細さと柔らかさを感じるだろう。香りと同様にフレーバーも素晴らしいバランスで、オークから深く引き出された甘さをスモーキーさが穏やかに包み込んでいるそしてココナッツ、ヴァニラカスタード、レモンの花の蜂蜜とともに、牡蠣の燻製と日に灼けた砂浜が現れる。
・フィニッシュ
フィニッシュは荘厳に訪れる。もちろんスモーキーだが、ファッジやモルティングした大麦、オレンジ、マンゴーの柔らかな甘さと、バナナ・トフィーパイを思わせる質の高いオーク樽由来の深みもある。一口ごとにいくつも重なり合っている層が次々に顔を出す。熟したリンゴやアプリコット、モルトやオークの甘さが、煙の如く現れては消えていく。これこそが典型的なポートシャーロットのドライなスモーキーさなのだ。
うーん、なんとも長いですね…。何となくですが、ワインのテイスティングコメントを連想します、あくまでイメージですが…。
意外と忘れがちなのがフェノール値が40ppmであることと、セカンドフィル・フレンチワインカスクを25%使用していること、そして大麦以外は基本すべてアイラ島で完結するようにしていることです。
2.個人的テイスティングコメント
今度は私の個人的なテイスティングコメントです。感じるままに書いているのと、次の項で書く変化を総合したうえでのコメントになります。
・香り
軽いスモーキーさ、青リンゴ、バニラ、パイナップル。麦やもみ殻のような穀物の香り。奥に草原のような青い草のさわやかな香りも感じられる。
・味
焦げた苦みがメイン。穀物,特に麦の甘みとバニラやバナナの甘みもいる。
飲み込むと、ベーコン的な焦げた苦みと麦やバニラの甘み、さらにブドウや白ワイン。生クリームのようなオイリーさ。まれに、ライムやオレンジの柑橘的な甘みと酸味。
・フィニッシュ
焼いたベーコンのようなスモーキーさ、バニラ、バナナ、麦などの香りとともに、ナッツやバターなどのオイリーな香り、さらに軽くリンゴなどの香りもある。
公式テイスティングコメントとの違いとしては、ワイン樽を使っているからか、白ワインやブドウのような香りを感じ取っていることです。それ以外は大体似ていますが、それほどオレンジやレモンなどの柑橘の香りは感じないようにも思います…。
3.香りと味の変化
さあ、本題の香りと味の変化です。
まず、開栓は2019年の10月7日です。この時点では、香りはスモーキーさとアルコール感、そしてバナナと温泉のような硫黄の香り、かすかなスイーツの甘い香りです。味はバニラ系の甘さと焦げた苦み。フィニッシュは、スモーキーさとともにナッツやバターのオイリーな感じ、軽くリンゴやナシのフルーティーな香りです。
この時点ではまだまだアルコール感が強いですが、フルーティーな風味が意外としっかりと出ています。スモーキーさはもちろん強めですね。
開栓から一週間経過した10月16日には、初めて麦と青リンゴの香りがしています。今思い返すと、最初にもこの香りはあったのでしょうが、それほど強くはなかったようにも思います。しかしこの時点で、少しの変化があったと記録しているので、事実変わっているのでしょう。
この次に飲んだ10月28日の時点では、今度はパイナップルが初登場しているので、このあたり、つまりボトルの肩よりも減って液面の面積が増えると割と早く変化して、開くようです。
しかし、ここからはほとんど変化しません。ハイボールやロックで飲むことが多かったから、というのもあるかもしれませんが、どちらで飲んでも同じようなコメントが続いています。この傾向が年明けまで続きました。たしかに、年末にかけては柑橘感が出ることもありましたが、出ない時がほとんどで、偶然かもしれません。
2月20日、飲み方はロックでしたが、ここでテイスティングコメントに初めて白ブドウが追加されます。今までなかったのか、というとそうではないので、若干強くなって感じ取りやすくなったという感じです。この白ブドウは、わりと高級で皮まで食べられる系の品種の感じです。皮が食べられないものにはない甘みの部分を、特に感じる気がします。ここで残っている量は、半分より少ないくらいです。
このあたりから、飲む頻度が落ちたのもありましたが開いてくる速度が速くなっているように思います。約一か月後の3月25日には杏を感じていますし、その一か月強後の5月8日には醤油のようなコクや、たくあんのような風味も感じています。10月から12月まで、大きな変化がなかったのとは明らかに変化スピードが違っています。もしかすると、気候的に温暖になっていったのも関係があるかもしれません。
6月23日からは、もう残り100ml程度であったこともあって、今まで閉じていた要素が一気に出てきている感じです。6月23日時点ではオレンジやライム、ベルガモットなど柑橘系の香りと味(柑橘類の酸味だけでなく甘みも含む)が非常に出ています。その後、6月27日には醤油やかつお出汁などのコク感がかなり出ています。こうなると、もうその日の気候に非常に左右されますが、非常においしいことには変わりありません。
7月7日、最後は意外とすべてが詰まっていました。
香りはパイナップル、若いリンゴ、麦、アロエ、スモーキーさ、少し奥にカラメルの焦げた香りやメープルシロップなど、全体的に黄色感が強い。
味は、口ではリンゴや洋ナシ、そして麦の軽い甘みと軽いスモーキーさ。飲み込むとスモーキーな焦げ、麦の甘みとパイナップルの酸味、次第にレモンのような柑橘系の酸味へシフトしつつ、生クリーム的な質感が残る。
フィニッシュは、スモーキーな香り、リンゴや洋ナシ、軽くバニラ、南国系フルーツ特有の甘い香り(いわゆるトロピカル詐欺ではないです)、どこかに醤油のような香りなど。
こんな感じでした。ターニングポイントは10月16日、2月20日ですね。
4.香りと味の変化のまとめ
ポートシャーロット10年は、上の詳しい変化を見てみるとわかるように、まずくなる時期がありません。もちろん、私が個人的に好きだからというのもありますが、悪い要素が出てくる時期がないのです。また、同時に要素が大きく変化する時期もありません。度数の高さによって安定しているのか、それとも原酒自体が安定しているからなのか…。
①香りの変化
最初はスモーキーさとアルコール感がメインで、奥に青リンゴやバナナがいる感じです。麦やパイナップルはいることはいますが少ない印象です。
半分くらいに減るとそれほど劇的ではないですが、しっかりと開いてきます。ブドウ感の増加やパイナップルの追加、さらに麦感もより強くなります。また、同時に次第にスモーキーさの主張が弱くなっていきます。以前まではスモーキーさがメインだったのが、ほかの要素と肩を並べられる程度になった感じです。
残り1/6程度かそれ以下になると、大きく開いてオレンジやベルガモットなどの柑橘の香りや、醤油やかつお出汁などの香りも出てきます。しかし、お互いがお互いを引き立てあっているのでけんかせず、非常にいい香りです。
②味の変化
味には不思議とあまり変化がありません。最初から一貫して、スモーキーな焦げた苦みと、麦やリンゴ,洋ナシの甘さです。飲み込んでからも、焦げた苦みとともに麦やバニラの甘みを感じたのち、生クリームのような質感が残ることは変わっていません。確かに、香りによって味は変化しますが、それでもほぼ変化しているような感じませんね。
唯一変わっているとすれば、アルコールのアタックです。やはり最初のころはアルコール刺激の強さはありました。
③フィニッシュの変化
最初のころはスモーキーさとともに、青い草の生い茂った草原や、夏の田んぼのようなそんな草の香りがしていました。
しかし、こちらは香りと比べて少し変わるのが速く、半分減るか減らないかあたりから甘い香りと酸味のある香りが追加されてきました。記録では、リンゴやブドウ、ブルーベリー、さらには杏など、何とか表現しようとして、逆に定まっていません…。
残り1/5くらいになった時点で、ここに醤油やかつお出汁的なコクのある香りが追加されてきます。草のような香りはこうなってくるとあまり香ってきません。香る場合でも、ブドウのつるくらいの感じです。
④今後への展望
しっかりと項目ごとに見てみると、フィニッシュから変化が始まっているように思われます。フィニッシュ→香りと変化が伝播していったようなので、もしかすると、もっと時間をかけると味ももっと変化するのかもしれません。また、季節による気温や湿度の上昇と変化の速度が似ているので、そこも変化の重要な要素になっているように思われます。次はそうした点に特に注目してみたいですね。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
最初にも述べたように、ポートシャーロット10年は個人的に大好きなウイスキーです。まだ飲んだことない方がいらっしゃったら、ぜひ飲んでみてください!
それでは。
ロワ・デ・キームンの香りと味
こんにちは!
今日はマリアージュ・フレールのロワ・デ・キームン(Roi du Keemn)のレビューです!
1.キームン紅茶とは?
本題に行く前に、少しキームン紅茶について解説します。
キームン、漢字で書くと「祁門」で、キーマンと言ったりキーモンと言ったりもします。これは地名で、中国の安徽省黄山市祁門県のことです。ここで作られた紅茶しか、キームン紅茶を名乗ることはできません。同じ安徽省でも違う県のものは「安徽紅茶」として区別されるようです。
キームン紅茶は、インドのダージリン、スリランカのウヴァとともに世界三大銘茶として知られます。その素晴らしさから、「紅茶のブルゴーニュ酒」ともいわれます。一般的にはスモーキーフレーバーと言われますが、それはあまり品質の高くないもの、特に19~20世紀に注目されて輸出量が増えた時期に多かった粗悪品に多かった香りです。
上質なものにはスモーキーフレーバーはほとんど見られず、蘭やバラの花の香りがすると言われます。水色は鮮やかな赤色で、味は穏やかで柔らかく、ほのかな甘みを感じます。また、茶葉は丁寧にねじられているため、なかなか開きません。そのため、抽出には5分かそれ以上かかります。
実は、マリアージュ・フレールで一番有名なフレーバーティーの「マルコ・ポーロ」はキームンがベースになっています。
2.ロワ・デ・キームン(Roi du Keemun)
マリアージュ・フレールのキームンの中では最高ランクのもので、ロワ・デ・キームン(Roi du Keemun)はフランス語で「キームンの王」を意味します。価格も税抜5,700円と高いですが、それだけの良さはあるように思えます。
①茶葉の形状と香り
ランクはFTGFOP。フルリーフで全くちぎれておらず、茶葉そのままの長さで一枚一枚ねじられています。色も非常に黒く(その分光の反射で白っぽくなる)、少し金色のゴールデンチップが入っていますね。
香りは甘い洋菓子や黒糖、ラベンダー、紫色の蘭などを思わせます。スモーキーさは全くと言っていいほど感じられません。
②水色,香り,味
・水色
写真ではわかりづらいですが、非常に鮮やかで深紅と表現するのが最も適しています。ルビーのように思えるほど、深くてきれいな赤色をしていて、みていてうっとりするレベルです…。
・香り
黒糖やマカロンのような甘く官能的な香りがします。椿の葉のように固く艶のある質感や、葦原のように少し枯れた河原の香りも感じられます。さらに、笹や竹の葉のような香りもあります。奥に若干の焦げ感と、黒く湿った土のような香りも感じられます。
・味
口に含むと枯れた草のような落ち着いた風味と、軽い渋み、さらにお茶の葉の甘みがしっかりと感じらます。飲み込むと、そのお茶の甘みは洋菓子の甘みのようにも感じられ、若干サツマイモのようにも感じます。余韻は長く、コクがしっかりと感じられます。
③感想
一般的に言われる蘭やバラというよりも、ラベンダー感を強く感じます。やはり水色は最高です。先に述べ調に、どうしても写真ではわかりづらいところがありますが、実際に見てみると、うっとりするくらいきれいで上品な、透き通った赤色をしています。香りと味も素晴らしく、全体としては仏教的な全てを包み込んでくれるような優しさを感じます。最高の紅茶の一つと言えるでしょう…。
3.抽出時間について
あくまで個人的にですが、5分がいいと思います。一般的な紅茶と同じく3分でもいいとは思いますが、茶葉の形状的に、やはり3分だとしっかりと開いてくれません。イギリス式で抽出した場合も、ジャンピングの終了が4分強くらいなので、少なくともそこまでは抽出が続いているものと思われます。一方で、5分よりも進むと渋みが次第に強くなってしまいます。このロワ・デ・キームンの場合、茶葉の純粋な甘みをしっかりと感じられるのが魅力でもあります。ですので、渋みは抑制したほうがいいと思います。
4.イギリス式とフランス式での違い
イギリス式とフランス式(コットン使用)における違いです。どちらも一杯分に換算して、茶葉2.5g,お湯200mlで、抽出時間は5分での比較です。どちらがいいかの参考にしていただけると幸いです。
①イギリス式での特徴
イギリス式で淹れた場合の良い点は、乾燥した状態での茶葉の香りが淹れてもしっかりと感じられる点です。飲む際に、乾燥した茶葉で感じられるような、ラベンダーやブルーベリーの香りがしっかりと感じられます。一方で、デメリットとして渋みの強さがあげられます。アッサムほど強い渋みはありません。しかし、口に含んだ際に渋みやえぐみをどうしても感じてしまいます。このロワ・デ・キームンの良さは、そのまろやかで上品な味わいでもあるので、少しマイナスです…。 確かにミルクティーに合うような風味です。
②フランス式での特徴
フランス式で淹れた場合の良い点は、なんといってもその味のまろやかさです。コットンフィルターが茶間から出るアクを吸着してくれるので、味に全く渋みが出ません。一方で、香りも一部吸収してしまっているのか、乾燥した状態の茶葉で感じるラベンダーのような香りは奥で少し感じられる程度になってしまいます。逆にその分、艶感と枯れ気味の草のような落ち着く香りが前に出てきます。
どちらがいいか
僕個人としてはフランス式をお勧めします。イギリス式で顕著に感じるラベンダーやブルーベリーの香りは確かに素晴らしいですが、フランス式でも香らないわけではありません。そして、味に関してはフランス式にイギリス式は勝てません。明らかにフランス式のほうがバランスが良いのです。
おわりに
いかがでしたでしょうか?個人的に、ロワ・デ・キームンは大好きな紅茶です…。キームンの香りと特徴、そしてマリアージュ・フレールのロワ・デ・キームンの魅力を知っていただければ幸いです。
それでは!
フランス式紅茶の淹れ方と抽出時間の話
みなさん、紅茶ってどう入れてますか?
紅茶は茶葉の成分が一気に抽出されるので、ほんの少しの差で味わいが大きく変わってしまうお茶でもあります。今回はそんな中でもフランス式の紅茶の淹れ方について解説していきます。
1..イギリス式?フランス式?
いきなり何かと思われるかもしれませんが、一般に言われる、ポットに茶葉をそのまま入れてジャンピングさせる紅茶の淹れ方、あれは実はイギリス式なのです。このやり方は、日本では主流すぎて多くの本やサイト、動画で解説されています。ですのでここで詳しくは解説しません。
一方でフランス式はほとんどと言っていいほど知られていません。紅茶を詳しく知っている人なら知っているかもしれませんが、そういう人でも知らない人はいる事でしょう…。
実は、フランスではイギリスよりも先にお茶が入ってきていました。しかし、お茶は体に悪いのではないかという議論が起こったこともあり、日常生活には紅茶ではなくコーヒーが取り入れられました。結果、紅茶はフレーバーティーがメインとなり、サロン・ド・テ(Salon de thé)と呼ばれる喫茶店で飲むものになりました。香りを楽しむフレーバーティーであるため、味に渋みが出ることは望ましくありません。そのため、渋いお茶で作るミルクティーを好むイギリスとは違った淹れ方になったと考えられます。
2.フランス式紅茶の淹れ方
①用意する道具
道具は以下の通りです。
・やかん
・はかり(正確に測る必要があるので0.1g単位、最低でも0.5g単位が望ましい)
・ティーポット(1つで大丈夫)
・コットンフィルター
・ティーカップ
コットンフィルターを用いることがフランス式の特徴です。コットンは余計な渋みを吸着してくれるので、上品な味わいになるのです。 逆に、それ以外はイギリス式、つまり一般的な淹れ方とほとんど変わりません。
※コットンフィルターではなく、金網のようなものに茶葉を入れるのも、簡易フランス式と言えるかもしれません。もしかすると渋みの抑制以外に、狭いスペースで抽出して余計な成分を出さないようにすることもあるのかもしれませんね…。
②淹れ方
先にティーポットとティーカップをお湯で温めたり、沸かしたてのお湯を使ったり、正確に茶葉を図るところまでは同じです。
1.コットンフィルターをティーポットにセットし、その中に茶葉を入れます。
2.茶葉の上からお湯を注ぎ、適切な抽出時間蒸らします。
3.時間がたったらコットンフィルターごと茶葉をとり、少しかき混ぜます。
(味を均一にするため)
4.カップに注いで楽しむ
意外と簡単ですね?
3.イギリス式とフランス式の比較
フランス式の紅茶の淹れ方はわかったと思いますが、違いは何なのか改めてみてみましょう。それぞれのメリットとデメリットを見ていきます。
①イギリス式のメリットとデメリット
メリット
・ジャンピングが抽出状況の目安になる
・ミルクティー向けの、少し渋みが強めの紅茶が楽しめる
デメリット
・水分が残っている限り抽出が続いてしまう
・抽出を止めたいならすべて移し替えるしかなく、ポットが2つ必要
・ストレートティーだと、移し替えないと渋すぎてしまうことが多い
ジャンピングが終わったときにはたいていおいしい状態になっていることが多いので、ジャンピングを見ていればいつがいいときかがわかるのは良い点です。しかし、ジャンピングはブロークンタイプ以下の細かい茶葉でないと、茶葉が重かったり空気が付着しすぎて浮力がつきすぎたりして、底にたまったり上に浮いたままになったりしてしまうことが多いです。そのため慣れないとジャンピングを目安にすることができなかったりもします。
また、イギリス式の場合だと、ポットが2つないと永遠に抽出が止まらないことは大きいです。差し湯すればオッケー、という方は何も問題ないのですが、そうでないとポットを二つ使うので洗い物が面倒です…。
②フランス式のメリットとデメリット
メリット
・抽出をいいところで止められる
・コットンで渋みが吸着され、上品でマイルドな口当たりになる
・茶葉の回収がしやすく処理しやすい
デメリット
・抽出の目安になる指標が何もない
茶葉を抜いてしまうので、自分の好みの濃さの時点で抽出を止められるのは大きいです。ポットも一つで済むので、洗い物も減ります。それに茶葉がずっとコットンフィルターに入っているので、抽出後の処理も楽です。
逆にデメリットとしては、抽出の目安がないことがあげられます。これは、もう抽出時間を覚えておくしかないです。
ここまでを考えると、僕は、フランス式のほうが楽でありながら渋みが抑えられ、ストレートでも美味しく飲みやすい紅茶が淹れやすいように思います。
4.抽出時間について
フランス式のデメリットとして、抽出の目安がないと書きました。そこで、抽出時間の目安と考え方について解説しましょう。
①メーカー推奨が基準
基本的にはそのメーカーの推奨している時間で入れるのが良いです。それが、そのメーカーが一番おいしいと自信を持っているところでもあるからです。
ただし、有名な紅茶メーカーはほとんど海外のものだという点に注意してください。実は日本語表記がなされていなかったり、日本語表記がただ訳しただけだったりする場合があるのです。これの何が問題かというと、海外の基準で書かれている場合、そこで使用されているのは硬度が若干高い水であり、日本のような軟水で入れる基準ではないということです。軟水で入れると、抽出はかなり早く進みます。3分~4分以上抽出してしまうと、ほとんどの紅茶は濃すぎて渋く苦いものになってしまうのです。また、日本ではイギリスでいわれているような「ポットのための一杯分の茶葉」も必要ありません。抽出時間と同様の理由で、濃すぎる紅茶になってしまいます…。
②茶葉の形状による時間差
茶葉の形状も抽出時間に大きくかかわってきます。フルリーフであれば、茶葉が開くのに時間がかかるので抽出時間は少し長めがいいです。ブロークンタイプ(BOPなど)やCTC製法による茶葉は、抽出しやすく作られているので短い抽出時間のほうがいいでしょう。これで1分近くも抽出時間が変わってしまうので、非常に大きいです…。
③抽出時間と旨味と渋みの量
茶葉の旨味の抽出は2分でピークがやってきます。それ以後、旨味の抽出量は下がっていってしまいます。対して、渋みの抽出はそれ以後も増加していきます。紅茶は渋みも重要な要素なのですが、渋すぎるとよくありません。そこで、この2分というのが一つのカギになる時間となるでしょう。
私の考える目安
個人的に日本での目安としては、一杯分として、茶葉2.5g~3g、お湯180ml~250ml、抽出時間2分~4分の範囲で好きに変えるのがいいと思います。
もう少し具体的に言うと、CTCタイプやブロークンタイプの茶葉は2分台で抽出を終えた方がよさそうです。フルリーフでは、渋みが強めの茶葉は、渋みを出しすぎないようにしながらも少し出すため2分30秒程度に。それ以外のものは3分から3分30秒程度にするのがいいと思います。あとは、ぜひ自分の好みに合った抽出時間を見つけてください!
5.ティーバッグについて
ここまで丁寧に読んでくださった皆さんは何かに気付いていませんか?
フランス式紅茶は、乱暴に言ってしまうとティーバッグとあまり差がないのです。もちろんティーバッグはコットンではないですし、茶葉の膨らむことのできるスペースも違っているのですが、基本的な方式としては同じだともいえます。
何が言いたいかというと、ティーバッグを卑下する必要は全くないということです。結局やっていることはフランス式の紅茶と変わらないのですから。(逆にフランスサイドから怒られそうですね…笑)
せっかくなので、簡単にはなりますが、ティーバッグで入れる時の注意点をまとめておきます。
①お湯を注いでからティーバッグを入れる(逆だと余計な空気がティーバッグ内に入ってしまう)
②しっかりとティーバッグを蒸らす
③ティーバッグは振ったり絞ったりしない
ティーバッグはこれさえ守れば非常においしい紅茶が手軽に飲める、画期的なものです。これを守って、ティーバッグでも美味しい紅茶を楽しみましょう!
おわりに
いかかでしたでしょうか?フランス式で紅茶をぜひ淹れてみてください。コットンフィルターは、「紅茶 コットンフィルター」などと検索すると意外と出てきます。
ただ、最後に大切なのは、「あなたがおいしいと思う淹れ方が一番おいしい」ことと、「質のいい茶葉であればどんな飲み方をしてもおいしい」ということです。人それぞれ好みは違いますから、ぜひ自分に合った淹れ方を見つけてください。みなさんの紅茶生活がさらに良いものとなることを願っています!
ダージリンについて
紅茶の産地には様々な場所があります。インドは紅茶の生産量が世界一ですが、ダージリンはその中でも非常に有名な産地です。そのダージリンについて解説していきます。
1.ダージリンの場所と気候
ダージリンと呼ばれる地域は、インド西ベンガル州の最北端にあります。わからないと思うので地図を見ましょう。下のインド全図のうち、赤くなっているのが西ベンガル州です。そして、そこの拡大図で、赤く囲った地域がダージリン一帯になります。すぐ西はネパールになり、東も少し行けばブータンに出てしまう、なんとも複雑な位置にあります。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%AB%E5%B7%9E の画像をもとに編集)
また、ここはすでにヒマラヤ山脈の一部であり、地域の平均の標高は2000mを超えます。そのため冷涼な気候で、朝晩には霧が発生します。しかし、冬に0度を下回ることがなく降雪がないため、お茶の栽培に適しています。この独特な気候が中国の茶の生産地と似ていたため、それを見込んで、イギリス植民地時代に茶の栽培が開始されました。そのため、中国種がもともと多い地域でもあります。
こうした地域に、合計で80以上の茶園が存在しています。
2.クオリティーシーズン
ダージリンに限らずですが、クオリティーシーズンと呼ばれる旬の時期があります。ダージリンではこれが年に三回あります。3~4月など春に摘まれたものをファースト・フラッシュ、5~6月など夏に摘まれたものをセカンド・フラッシュ、10~11月など秋に摘まれたものをオータムナルと呼びます。
①ファースト・フラッシュ
3~4月頃に収穫される、いわゆる一番茶です。春摘みとも呼ばれます。この時期はまだ涼しいため発酵がなかなか進まず、茶葉も緑のままのものが多くなります。そのため、水色も淡い黄色や淡いオレンジ色になります。ある意味では薄い紅茶ですが、逆にそのフレッシュさ/若々しさが魅力でもあります。一番緑茶に近いダージリンの紅茶と言えるかもしれません。
②セカンド・フラッシュ
5~6月に収穫される二番茶で、夏摘みとも呼ばれます。この時期には昆虫による食害や乾燥などからストレスを受け、そのおかげでダージリン特有の独特の風味を生み出します。マスカテル・フレーバーという、マスカットのような香りがすると表現されることがありますが、これは非常にあいまいな表現です。たしかにマスカットのようなみずみずしい酸味を伴った香りがすることもありますが、それがすべてのセカンド・フラッシュで感じられるわけではありません。ないからと言ってダージリンの良さがなくなるわけではないので、この用語に惑わされる必要はありません。
③オータムナル
10~11月など秋も深まったころに収穫されます。モンスーン(季節風)によるたくさんの雨と夏の日照により、たくさんの栄養を蓄えた時期であるため、非常に深みのある味わいになります。収穫時期が遅い分、このように茶園の気候の影響を最も色濃く反映しており、その茶園の特徴が最大限発揮されたものでもあります。水色も3つのクオリティーシーズンの中で最も濃いものとなります。一方で、香りは穏やかになります。また、この時期になると生産しない茶園も多いため、実は希少かもしれません。
3.ダージリンの紅茶?
本当にダージリン?
ダージリンと名の付く紅茶はたくさん販売されています。しかし、ダージリン産の紅茶はインド産の1パーセント程度…。明らかに足りません。これにはダージリンと名乗れる基準が関係してきます。
実は、ダージリン産の茶葉とその他の産地の茶葉をブレンドしたものもダージリンティーを名乗ることができるのです。禁止されていない以上、仕方ありません。しかし、ダージリン産100%だと誤認してしまうのも事実です。しっかりと、どこ産の茶葉が使われているか確認するしかないですね…。
一方で、完全なダージリン産のものには二種類あります。
①ダージリン産の茶葉のブレンド
ダージリンで生産された茶葉のみをブレンドしたものです。ブレンドの仕方は様々です。クオリティーシーズンごとにブレンドして、ダージリン・ファーストフラッシュなどとしているものもあれば、すべてのクオリティーシーズンを混ぜたものもあります。ダージリンにおけるブレンドティーともいえるかもしれません。
②茶園ごとの茶葉
ダージリンには80以上の茶園がありますが、多くの茶園がブランド化されています。もちろん、ブレンド用のみで出荷しているところもあります。茶園ごととなると、3つのクオリティーシーズンごとに分けて販売されていることがほとんどです。同じダージリンと言っても、もちろん、クオリティーシーズンごとにある程度の類似性はありますが、茶園ごとに栽培しているチャノキの品種は異なっていますし、立地が異なっている以上風味も全く違ったものになります。さらに、オーガニックの茶園も多く存在しており複雑です。ウイスキーのシングルモルトの様に様々な周囲があり、奥が深いです…。
4.ダージリンの茶葉の等級
紅茶の基本で書いた茶葉の等級が基本になっているが、ダージリンになると非常に等級表示が長いものが増えてきます。ダージリンのブランド化された茶園のものであると、フルリーフがほとんどになるので、より細かいランク分けがなされているということです。パット見ただけでは意味が分からないものばかりなので、解説していきます。
まずは、FOP(フラワリー・オレンジ・ペコー)が基本になります。茶葉の呼び方と等級について解説したところで、一番新芽を多く含むとされるものでしたね。ここに、いろいろな修飾がついて行きます。この修飾はFOPの前へ前へとついて行くのでご注意ください。
この上にまずつくのが”G”です。これはGolden(ゴールデン)の略で、お茶の水色が美しい金色を示すという意味があると同時に、ゴールデンチップと呼ばれる,新芽が紅茶の色によって黄金色に染まったもの多く含まれることを意味します。ここまででGFOPとなります。
次につくのが”T”、Tippy(ティッピー)です。これはチップ/ティップ、つまり新芽が多いことを意味します。ここまででTGFOPとなりますが、インド政府が公認しているのはここまでです。これ以上は茶園やバイヤーの判断によるものになるので、明確な基準はわからなくなります。
次につくのが”F”、Fine(ファイン)です。Fは位置によって本当にいろいろな意味になります。ここではFineですから、TGFOPのなかでも質のいいものといった意味です。ゴールデンチップの量が多くなると質のいいものとなります。ここまででFTGFOPとなります。
最後に”S”がよくつきますが、これに関しては意味が確定していないかもしれません。Wikipediaでは”Silver”の略で、シルバーチップと呼ばれる新芽を乾燥させたものからなるものとしていますが、果たしてそうなのでしょうか?シルバーチップもゴールデンチップもチップ/新芽の状態を指すものです。そして、”G”が入った時点でゴールデンチップが多いわけですから、シルバーチップは逆に少なくなるのではないでしょうか?事実、これをSilverの略ではなくSuperの略だと解説しているところもあります。どちらが正しいのか、等級を付けた人によって違うのか、わからないです。ですので、SFTGFOPはFTGFOPの中でも質のいいもの程度に思っておくのがいいかもしれません。
ということで、これらをランクの高い順に並べるとこうなります。
SFTGFOP – FTGFOP – TGFOP – GFOP – FOP (– OP…)
ちなみに、FTGFOP以上になると末尾に”1”がつくこともあります。これは1st(ファースト)を意味しこのランクの中でも質がいいという意味になりますが、正直このくらい高いランクではついていようがいまいが変わらないと考えてもいいでしょう…。
5.ダージリンの茶園一覧
ダージリンの茶園はこのようになっています。
(http://www.dharmasala.cz/wp/za-horami-a-cajem-2/ 及び https://otonaninareru.net/darjeeling-87tea-gardens/ より)
一般的にダージリンの茶園は87と言われていますが、よくよく調べていくとどうやらそれ以上ありそうです。もしかすると、広義には同じ茶園であるのに別々に数えられているものもあるかもしれません。ここは後々詳しく調べていきたいところです…。
しかし、本当に様々な茶園があります。ブランド化された茶園はほぼすべてが有名です。有名でないものがないレベルですね。いずれまた別の記事にしようと思います。
おわりに
文字ばかりになってしまいましたが、ダージリンについての理解は深まったでしょうか?名前が知れた産地ではありますが、奥の深い産地でもあります。単一茶園のものとなるとどうしても値段が張ってしまうのが難点ですが、その分美味しいものがたくさんあります。ぜひ飲んでみてください!